【2013年秋:認知症の兆し⑥~書道グループ展にて⑴】

 

母の書道展観覧を約束した日、私は美術館にむかった。

母は受付に3人のサークルメンバーとともに座っていた。

「お母さん、来たよ」

私は大きな菓子折りを携えながら母に声をかけた。

焦点があってないような母の目が私に向いた。

1分もそうしていただろうか?

「お母さん、純子、純子だよ?」

数回声をかけると、母はハッと正気を取り戻したようになり、

「アラっ!純子!あんまり綺麗な人が来たんで分からなかった!」

と取り繕うような笑顔で、サークルメンバーの方を見ながら言った。

「へえ、お嬢さん。綺麗な方だねえ」

「あの立派な方と結婚したっていう二女さん?あらぁお綺麗な方だね」

メンバーは見てはいけないものを見た後のように、口々にその場をごまかしてくれた。

“人が多く出入りしているし、私はもう地元の人間じゃないし、地元の人と違う格好をしているから、こんなこともあるのだろう”

気を取り直して私は大きな菓子折りを受付に渡した。

「いつも母がお世話になってます。これ、少しですけれど、皆さんで召し上がって下さい」

その場が凍り付いたように固まった。誰も何も言わなかった。

しばらくの間があり、

「…ではいただきますね」

男性の方が代表して受け取ってくれた。